東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)93号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
問題となった実用新案は、食品業界の雄である日清食品が開発したもので、審決の取消を求めた原告は、その特許関係の権利を管理する子会社である。近年、一般家庭に急速に普及し、競争の激しいカツプ入り即席もの製造に必須といつてよい程の広い権利であるだけに、即席食品の業者は殆んど実施権の設定をやむなくされていた。原告の取得する実施料も年々巨額に達し、無効審決が出てからペンデイングになつているものだけで約二億円ともいわれている。容器メーカーである被告からの審判請求に基く無効の審決が、高裁でも維持された。この判決が確定すれば、原告日清食品側の包装技術の独占は失われる訳で、業界に与える影響は大きく、日刊新聞等にも大きく報道されたところである。
【判旨】
二そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一) 本件考案と第一引用例には審決認定のような一致点と相違点があること、第二引用例には食品を容器内に収納し、その全体をポリエチレン等の柔軟被膜で被覆することが記載されていることは当事者間に争いがない。(<証拠>によれば、第二引用例において容器内に収納されるものは、即席調理性のあるグラタンの諸材料でそれぞれ包装されたものであることが認められる。)
(二) 問題は、本件考案における密封包装の技術が第三引用例に記載されているかどうかである。
1 まず、本件考案における密封包装の技術はいかなるものかについてみると、請求の原因(四)1(1)は当事者間に争いがない。
2 そこで、本件考案における密封包装の要素である「熱収縮性フイルムにより全体被覆」「全体加熱」「フイルムの容器外壁への密着」という事項が第三引用例に示されているかどうかについて吟味することにする。
(1) まず、第三引用例においても、熱収縮性フイルムが被包装物全体を被覆していることは当事者間に争いがない。
(2) つぎに、前記「全体加熱」「フイルムの容器への密着」という点について検討する。
<証拠>によれば、第三引用例には、まず、収縮包装技術(Shrink Packaging techniques)という標題のもとに「ここに示されているいくつかの方法は、包装用フイルムの熱収縮性という特徴を、製品を包んだり、縛つたり、動かないようにしたり、分離したりするために、同様他の種々の包装作業を行なうために、用いることのできる新しい型の包装についての基本的な手引を示している……」旨が記載され、次に「包んで収縮する」、(Shrink Wrap)の項に「フイルムを製品上の中央部に位置せしめて、対角線を製品軸方向に合わせ、フイルムの四つの隅端を製品の裏面において集合せしめる。包装体は、折り重ね部分を下向きにして、シーラー・クーラー(sealer-cooler)の上を通過せしめられる。」と記載され、また「カバーを収縮する」、(Shrink Cover)の項には、「口縁部が外部に突出している皿の場合、フイルムをその端縁が容器口縁の下方にまで延びるようにして製品上の中央にゆるくかぶせる。保護材を製品の上にかぶせてこれを容器口縁上に載置する。熱を容器の側面に加え、フイルムの端縁を収縮させて、容器口縁の下側に帯状に密着させる。その後保護材を取り除き製品の上に熱を加えると、フイルムは収縮して容器の外側にぴったりと密着する」と記載されていることが認められる。
そして、<証拠>をあわせると、第三引用例記載の前記「シーラー・クーラー」とは冷却機構をとり入れたシユリンク・トンネル(「シユリンク・トンネル」とは、工業的に多量の包装をするため、箱状をした密閉体の内部に加熱空気を発生させて強制循環をさせておき、加熱収縮性フイルムにつつまれた被包装物をコンベアーによつて移送して、この内部を通過させる装置)を意味することが認められるから、第三引用例に記載された「包んで収縮する」(Shrink Wrap)包装方式も熱収縮性フイルムにつつまれた被包装物をしてシユリンク・トンネルを通過させ包装体全体を加熱することを前提としていると解することができ、また、第三引用例の「カバーを収縮する」の項に記載の前記事項をみれば、皿状の容器の製品上に、容器口縁の下方まで延びるように熱収縮性フイルムで被覆し、容器側面を加熱することによりフイルムを収縮させて容器の口縁に密着させた後、さらに製品の上に熱を加えてフイルムを密着させるという包装技術が示されている。
もつとも、第三引用例の「包んで収縮する」の項に「折り重ね部分には若干の空気通路が残存する」という記載があることは当事者間に争いがないけれども、前記のように包装体全体が加熱される以上、被包装物とフイルムの間隔隙に存在する空気は加熱により膨張するが、フイルムの収縮により逃げ場がなくなりついにはフイルムの破裂を招くことにもなるから、この空気が外部に排出される通路を設けなければ、フイルムの容器外壁への密着、ひいては被包装物の密封が実現できないことは尋常自明なことであり、前記のように「折り重ね部分には若干の空気通路が残存する」という記載があるからといつて、第三引用例記載の包装技術が密着密封の包装技術ではないとみることはできない。本件考案においても空気を排出するためのピンホールが存在することは当事者間に争いがないが、第三引用例における「若干の空気通路」はこのピンホールと径庭がないとみるのが相当である。
3 そうすると、結局本件考案における密封包装の技術が第三引用例に示されているといつて差支えない。
(三) つぎに、本件考案の齎す作用効果に関して検討する。
本件考案が原告主張のような作用効果を齎するものであることは当事者間に争いがない。
そこで、この作用効果が顕著なものであるといえるかどうかについて、以下順次検討を加える。
まず、請求の原因(四)2(1)の効果は、第一引用例に示されている発泡スチロール製即席食品調理用容器についての技術と第三引用例の熱収縮性フイルムにより被包装物をつつむ技術を組合わせれば当然予測しうる効果であるとみることができる。
つぎに、請求の原因(四)2(2)の効果も、食品容器全体をその内部に収納した調理材料とともにポリエチレン等の柔軟被膜で被覆包装した第二引用例の技術と前記第三引用例の技術から予測しうる効果であるとみることができる。
さらに、請求の原因(四)2(3)(4)の各効果が第三引用例のものも齎しうる効果であることは多言を要しない。
したがつて、本件考案が齎す作用効果は、いずれも顕著なものとはいい難い。
そうすると、本件考案は第一ないし第三引用例からきわめて容易に考案できたとする審決の判断に誤りはなく、審決を取り消すべき事由はない。
(小堀勇 舟本信光 小笠原昭夫)